きつねとCDウォークマン-1
ぼくが、そのきつねと出会ったのは、雨ですっかりぬれてしまった画用紙に、イライラしていたときのことだ。
絵をかくのは、ほんとはあんまり好きじゃない。
学校の宿題だからしかたないけど、ぼくは近所の家をてきとうにかけばいいやって思っていた。
それなのにお母さんったら、
「今日はいい天気だし、お父さんがつりにいっているあいだに、あなたも山で絵をかいてきたら?」
なんて朝からはりきって、おべんとうまで作っちゃって、まるで自分が出かけるみたいにわくわくしてる。
これじゃあ、なんだかことわれなくて、ぼくはしかたなく画用紙と絵の具をリュックに入れた。
たいくつだからゲームでも持っていきたいところだけど、すぐそばでお父さんが見てるからやめておこう。
CDウォークマンがいいや。音楽をききながら絵をかけばいいんだ。
そんなわけで、お父さんとわざわざ山まで出かけてきたっていうのに、
「いい天気だなんて、お母さんのうそつき!」
ぼくはさけんでしまった。
急に雨がふってきて、カサなんてもっていなかったぼくは、あわててお父さんの車にもどったけれど、せっかくかいた絵はぬれちゃうし、CDウォークマンはわすれてくるし、ついてないよ。
しかたなく、おりたたみのカサをもって、ぼくはもういちど外へ出た。
「ええっと、たしかこのへんなんだけど……」
さっき絵をかいていたところは、車からそんなにはなれていないはずだった。だけど、
いくらさがしてみても、おきっぱなしのCDウォークマンが見あたらない。
それに、いつのまにか雨はすっかりやんでいた。
地面だってかわいているし、池には虹がぼんやりうつっている。
空は、雲も見えないくらいの青空だった。
ほんとうにさっき雨がふったのだろうかと、うたがいたくなるほどだった。
ふと見ると、遠くのほうに黄色い花がゆれているのが目にとまった。
その見なれない花ばたけは、ずっとむこうのほうまでつづいているらしかった。どうして気づかなかったんだろう……?
もし見つけていたら、まちがいなく あの花を絵にかいたのに。