まほうのほうきづくり教室
まほうのほうきづくり教室
まほう使いたちに、ほうきのつくり方を教えてくれるふくろうがいました。
ふくろうはツバサで飛ぶことができるので、自分でほうきに乗ることはありませんでしたが、ちょっとほうきに乗るのが下手なまじょがいると、ほうきに自分の羽をちょっぴりくっつけて、なめらかに飛ぶほうきをつくってあげることができました。
ふくろうは、森の中で、
【ふくろうほうき店】
というお店やっていました。
いつも 親切だし、ていねいで、まほうのほうきがなめらかにとぶようになると、まほうつかいのあいだで評判でした。
そんなある日、ツバメの夫婦がやってきて、
「うちも、店を開きたい」
と、ふくろうのお店のとなりに、
【ほうきの店ツバメ】
という、ほうきのお店をオープンしました。
ところが、ツバメの奥さんはすごくきびしくて、
「自分の羽をつけてとびやすくしてやるなんて、ふくろうのやり方はダメだ! うちはそんな甘いことはしないね」
と言っていました。
「ほうきづくりのやり方が悪いだけさ。ほうきさえしっかりしていれば、ちゃんととべるはずなんだ。」
と思っていました。
そんなわけで、【ふくろうほうき店】と、
【ほうきの店ツバメ】の2つのほうきのお店は、それぞれがまったくちがうやり方でした。
どちらのお店も、まほうつかいのお客さんを相手に、ほうきづくりのレッスンをしていました。
ふくろうほうき店では、まず自分たちでほうきをつくります。
好きな木材をえらんで、好きな太さにけずります。
けずったら、ふさをとりつけます。
ふくろうの店では、木材も素材や色や太さ、ふさとのバランスも、お客さんの好きなものをえらぶことのできるので、毎回たいへんな人気でした。
けれどすぐとなりの、ほうきの店 ツバメでは、すべて決められた形のものしかおいてありませんでした。
「1番とびやすく、1番乗りやすく、1番かるくて、1番カッコイイ! 何といっても、これが1番とびやすいに決まっているわ」
ツバメの奥さんは、いつもそう言っていました。
少しでも太かったり、少しでも、ふさをとりつける場所がちがったりすると、おこってお客さんたちをしかりつけました。
後ろにとりつけるふさが大きかったりしたら、
「あーふさが重すぎる! そんなんじゃ、すぐにおっこちてしまうじゃないか!」
と、止められてしまいます。
少しでも木を細くけずりすぎると、
「 あ ー、けずりすきだよ。あんた、どんなほうきにするか、ちゃんとイメージできてるのかい? そんなんじゃ、強風がふけばすぐにポキッとおれてしまうよ。あーあ。なんにも考えていない生徒はこまるねぇ」
と言いながら、すぐにイヤな顔をしました。
「言うことを聞いてもらわないとねぇ、私がちゃんと教えてないみたいに思われるじゃないか! まったく、子供はこれだから困るよ」
小さな子供のまほう使いが相手でも、おかまいなしにどなりつけました。
ほうきづくりを失敗してしまった生徒には、とくにきびしいことを言いました。
「けずりすぎだって言ってるのが、わからないのかい? ほうきはおもちゃじゃないんだよ! ほら、今すぐ作り直すんだよ!」
目をつり上げてさけびます。
「これだけ私の指示とちがうものを作られたら、私の名前にキズがつくわよ。このほうきでぜったいに外をとびまわらないでちょうだい」
と、めいわくそうな顔をしたり、
「こんなほうきで空をとんで、けがをされたら大変だわ! もし、これで飛んだりしておっこちてケガをしても、私のせいだなんて言わないでちょうだい」
と、そっぽを向いたりしました。
そんなツバメの奥さんは、生徒たちに必ず言うセリフがありました。
「さいごに大事なことを言っておきます。これで空をとぶときには、かならず、ツバメ先生のおかげでとべたと言うのを忘れないように。みなさん、分かりましたね。みなさんのお父さまやお母さまにもかならず言うんですよ」
また別の日にはこんなことも言いました。「もしかりに、まあ、そんなことはないと思いますけど、うまくとべなかったとしても、それはツバメ先生とは何の関係もないことなのです。うまくとべないのは、ほうきのせいではなく、あなた方がきちんとレッスンをしなかったからだということをよく覚えておくように」
レッスンの終わりには、かならずこんなことを言うのでした。
でも言うとおりにしていれば、ちゃんととぶことができるので、
【ほうきの店ツバメ】の
レッスン教室は、まほうつかいの生徒でいっぱいでした。
【フクロウほうき店】のレッスンは、たしかに好きな大きさで、自由にほうきが作れるのが人気でしたが、
「かならずとべるとは限らない」
という人がいました。
それを聞いたツバメの奥さんは、ふくろうの主人を見てバカにしたように笑いました。
「どんなに人気があっても、とべるほうきが作れないんじゃ、ダメよねぇ。生徒に自由に作らせても、けっきょくとべないんじゃ、おそうじのほうきにしかなりませんよねぇ」
ふくろうの主人は、レッスン教室のあとかたづけをしていました。
たくさんの木材の中から、好きなものを選んでもらうので、木のくずもたくさん落ちています。
それを見たツバメの奥さんは、からかうように言いました。
「あらあら、あなたの教室はずいぶんきたないのね。まぁ、とべないおそうじほうきがたくさんできるんだから、ちょうどいいかもしれないわねぇ」
失敗作のほうきを見ながら、ツバメの奥さんは続けます。
「うちの生徒には、決まった太さにけずらせて、その場ですぐにきれいにさせますのよ。ちらかることなんて、ありませんのよ」
ふくろうの主人は、聞こえないふりをしました。
それがますます、ツバメの奥さんをイライラさせました。
「あなた、まだレッスンなんてやってらっしゃるの? 私とあなた。どちらが優秀かはもうおわかりよね? ここには、優秀なほうきづくりのレッスン教室は、一つあればじゅうぶんなのよ。早く店を閉めたらどうかしら?」
ツバメの奥さんは、それだけ言うと、窓からついっと空へとんで行きました。
あるとき、【ふくろうほうき店】と、【ほうきの店ツバメ】の、それぞれのほうきづくり教室を、まほうの国の王様が見学に来られるとの連絡が入りました。
ツバメの奥さんは大よろこびで、さっそく、じまんのうまくとべるほうきを、店の目立つところに並べて、満足げにうなずきました。
「王様に良い教室であることをアピールすれば、きっと今よりもっと生徒がふえて、うちは大もうけできるわ! ふくろうの店がダメな店だとわかれば、お客はみんなうちに来るに決まっている。ふくろうの主人も、王様の前ではじをかけば、店をたたむ気になるかもしれないねぇ。」
ツバメの奥さんは、ニヤリと笑いました。
ちょうどそのころ、まほうつかいの子どもたちは、王様が来られるところを見学しにやってきました。
たくさんの子どもたちが、お店の前に並んでいます。
中には、まほうつかいのお父さん、お母さんの姿もありました。
そこへ王様がやってきました。
王様はまず、ツバメの奥さんがやっている
【ほうきの店 ツバメ】を見学しました。
ツバメの奥さんのほうきづくりの教室の中は、あちこちにかざられた花の香りでいっぱいでした。
じつは、ツバメの奥さんが王様のために、朝からかざりつけたものでした。
「王様はきっと満足して、生徒をたくさんかよわせてくださるだろうよ。ふくろうの店とはちがうってところを見せてやらないと!」
【ほうきの店ツバメ】のほうきづくり教室の真ん中には、花といっしょに一本のほうきがかざられていました。
「ごらんください、王様。これが、わが店じまんのほうきでございます」
ツバメの奥さんは、ここぞとばかりにアピールを始めました。
「うちが教えておりますのは、こちらのほうきとまったく同じものでございます。うちは、1番飛びやすく、1番乗りやすく、1番軽くて、1番かっこいいほうきの作り方を教えておりますの。私が何回も乗ってみて確かめましたので、私の言うとおりにしていれば、まちがいありません。だれでもこのように、みごとなほうきが作れることをお約束いたします。これを使えば、どんなにとべないまほうつかいも、必ずとべるんでございます。失敗なんてありえません」
王様は、
「なるほど、失敗させないというわけですか」
と感心した様子でした。
ツバメの奥さんは自信満々でした。
続いて王様は、【ふくろうほうき店】のほうきづくり教室に行きました。
入ってみると、すぐにペンキのにおいがしました。
カベには、いろんな木材が立てかけてあるのが見えました。
机の上には、木を削るためのカッターナイフが並んでいました。
ふくろう先生がていねいにおじきをしてから、説明しました。
「うちでは、生徒に好きな木材で、好きな長さで作ってもらいます。そのあと好きな色をつけてもらっております」
よく見ると、カベにぶら下がっているたくさんのエプロンも、うっすらと赤や青が残っています。
お店の床は、いろんな色のペンキでよごれていました。
王様の後ろから、ツバメの奥さんが入ってきました。
ツバメの奥さんは、床のよごれを見て、あからさまにイヤそうな顔をしました。
王様はお店を見わたすと、
「ほほう、こちらはかなり自由ですなぁ! 生徒にえらばせると言うわけですね」
と言って、うなずきました。
ふくろうの店の見学が終わると、王様は、外で見ていたまほうつかいの子どもたちに声をかけました。
「それではここで、みんなにしつもんしよう。【ふくろうほうき店】と、【ほうきの店ツバメ】のどちらの教室に、つづけて通いたいと思う? みんな通いたいと思う方のお店の前にならんでごらん」
ツバメの奥さんは、みんなの前でたくさんアピールしてきたので、自信たっぷりでした。
「きっとみんなが、うちをえらぶんだろうねぇ。行列ができちゃうかもねぇ。お父さま、お母さまも、私がすぐれているってことは分かってらっしゃるし、ふくろうの店なんて、あんなにきたないんだから」
ふくろうは、何も言いませんでした。
ツバメの奥さんは、
(ふくろうのところには、だれもならばないじゃないかしら? かわいそうにねぇ)
と思っていました。
そこで、となりのふくろうに言いました。
「あーら、そんなねむそうな顔して、負けをみとめたってことかしら」
ところが、まほうつかいの子どもたちが、ならびおわったのを見てみると‥‥‥。
【ほうきの店ツバメ】の前にならんだのは、ツバメの奥さんの子ども、たった1人だけでした。
ほかのまほうつかいの子どもたちは、みんな【ふくろうほうき店】の前にならんだのです。
ふくろう先生は、ならんでくれた子どもたち、1人1人に声をかけました。
「とべるようになったのかい?」
「おれたところをなおせたかい?」
「どうしてだ!」
ツバメの奥さんは、なっとくできませんでした。
自分がふくろうよりも人気がないなんて、とても信じられませんでした。
「ふくろう先生は、失敗すると分かっていても、それをとめようともせず、そのまま作らせているんですよ!」
「それではあなたは、失敗しないほうきづくりを教えているというわけですか」
「その通り!」
ツバメの奥さんは、自信たっぷりに言いました。
「うちでは失敗はありえません! なぜなら、わたしがなんどもくり返し飛んだけいけんの中から、1番飛びやすく、1番乗りやすく、1番かるくて、1番‥‥‥」
すると、
「そんなの、つまんない!」
まほうつかいの子どもが言いました。
「わたしは自分で考えて、自分でつくれるようになりたいの」
また、べつの子どもは、
「わたし、ツバメ先生のほうき1回つくって、家においてあるからいらない」
と言いました。
「オレももってる」
「ボクも。 2本も同じのいらない」
「そうそう! だから次は、ふくろう先生から習って、自分で作れるようになりたくて、こっちにならんだ」
「あたしも!」
すぐとなりで、その様子を見ていたツバメの奥さんは、ぼう然としました。
「なぜだ‥‥‥! このわたしが負けたと言うのか」
「ツバメさん」
ふくろうの主人が、やっと口を開きました。
「ほうきづくりに、勝ち負けなどありませんよ」
ふくろうの主人は、おだやかな口調で話を続けました。
「わたしは、あなたを否定するつもりなど、まったくありませんよ。あなたはとても素晴らしいレッスンをしておられる。ぜったいにとべるほうきがつくれるなんて、とぶことに自信のない子どもたちには、とてもみりょく的ですよ。ですが、ねぇツバメさん」
ふくろうの主人は、ならんでくれたまほうつかいの子どもたちに目をやりました。
そして、1人の子どもが持っていた、先がおれたほうきを手に取りました。
それはきのう、ふくろう先生の教室で、いっしょうけんめい作っていたほうきでした。
「自分で考えるって、素晴らしいことじゃありませんか」
ふくろうの主人はほこらしげに、おれたほうきをツバメの奥さんの前にさし出しました。
「失敗したっていいじゃない」
ふくろうの主人は言いました。
「子どもは失敗から学ぶものだよ。たとえば、このほうきがとんでいるあいだにおれてしまったとする。そうすると子どもは、
『この細いほうきではダメだ!』
ということを学ぶ。だから、
『次こそは、もっと丈夫なほうきを作るぞ!』
と思って、次回も予約してくれるんだ。
だけど、最初から失敗させないように、大人が考えたものをそのまま作らせてしまえば、どうなる? たしかにほうきはおれないだろうけど、おそらくそれっきり、また作ろうとは思わないだろう」
すっかり落ち込んでしまったツバメの奥さんの肩を、トントンとたたく子がいました。
ほうきの店ツバメの前にならんでいた、ツバメの奥さんの子どもでした。
「ぜったいにとべるほうき、すごいって!」
にっこりと笑うむすめに、
「‥‥‥そうね」
ツバメの奥さんは、力なく答えました。
「これはすばらしい!」
王様は感心して言いました。
「この街には、素晴らしいほうきづくりの店が2軒もある。これからもたくさん利用させてもらおう! ツバメの店は初心者用に、ふくろうの店は上級者用に。それぞれにいいところがあるからな!」
ふくろうの主人とツバメの奥さんは、おたがいに顔を見合わせて笑いました。
この街には、今でも2つのほうきの店がならんでいます。
ただ1つ、変わったことは、ツバメの奥さんが、前より子どもたちに優しくなったということでしょう。
おしまい