おねがいレレア


 おねがいレレア


 
 
公園においてあるダンボールを見たら、だれだって、もしかしたら子犬か子猫がすてられているんじゃないかって思うでしょう。
でも、今日アイが見つけたのは、なにも入っていないただのダンボールでした。
 
ただ『そう見えただけ 』 の‥‥。
 
「なぁんだつまんない。 この中になにかおもしろいものでも入ってたらよかったのに」
そういって帰っていくアイを、じっと見ているいっぴきのうさぎがいました。
 
レレアという名前の魔法のうさぎでした。
本当はふわふわした白いからだをしていますが、今は魔法をつかって、すがたをけしているのです。
「おもしろいもの、おもしろいもの‥‥
はやく、はやくとりださなくっちゃ!」
レレアはあせって魔法をつかおうとしましたが、すぐに大事なことを思い出しました。
「いけない! ここでは魔法を1回しかつかえないんだったわ」
レレアはダンボールをとびだして、すぐにアイのあとをおいかけました。アイは、部屋にもどると 、ゆううつそうな顔でカレンダーをにらんでいました。
「あーあ。明日はまたあのきもだめしかぁ」
アイはおばけがだいきらいです。

「なんとかならないかな? でも、ミクちゃんからさそわれたら、行かないわけにもいかないし‥‥」

そのとき、窓の外から声がしました。
「こまったことがあるのね!」
アイはびっくりしてふりむきました。
部屋にはだれもいないはずです。
声はいちだんと高くなりました。
それは、まるで『こまったこと』があってうれしいみたいに聞こえました。

アイはムッとして、
「なによ、人がなやんでるっていうのに!」
「あたしが聞くわ。なんでも言って」

声は、アイの気持ちにおかまいなしにうれしそうです。
「だれなの ? 」
そういうと、アイの目の前に小さくてまっしろなうさぎがあらわれました。
「う‥‥うさぎ? しゃべってる!」
「はじめまして、あたしはレレア。魔法の世界からきたの」
「魔法の世界‥‥って、魔法がつかえるの?」
「そうよ。あたしはいろんな魔法がつかえるわ!だけどね、ここでは1回しかつかっちゃいけないのよ 。これおじいちゃんのいいつけだからまもらなくちゃ」

 


 

レレアは、アイのとなりにちょこんとすわりました。
「じつはね。おじいちゃんがあたしに、
『人間の世界で人の役に立ってきなさい 』
っていうの。あたし魔法が得意だから、なんだってできるっていったわ。そしたら、おじいちゃん
『 人間の世界で魔法はいかん』
だって! たぶん人間たちがびっくりして、おおさわぎするからなのよね」
レレアはそんなふうに思っていましたが、本当のところおじいちゃんは、レレアがあんまり魔法のカにたよってばかりなので、こまったあげく修行に出したのです。
レレアは、魔法の世界ではなんにもしませんでした。

レレアは魔法が上手でしたから、じゅもんをとなえれば、なんだって出すことができました。
おなかがすいたら、にんじんを出して、おなかいっぱい食べました。

出かけたいときには、空飛ぶじゅうたんでどこにでも出かけていきました。
それだけならまだいいのですが、おじいさんから べんきょうを教わっているときに、ねむくなったからといって、ふとんを出してさっさとねてしまったことがあるのです。

これには、おじいさんも頭をかかえてしまいました。
いつのまにか、レレアはずいぶんいばって、学校をサボって勝手に早く帰ったりするようになりました。
先生にしかられても、まったく反省するようすもありません。
「 あたしはもう、なんだってできるの 」
これが、最近のレレアの口ぐせでした。

おじいさんは、レレアをちょっぴりこらしめようと、
【人間の世界では、魔法は使えない】
という条件つきで、人間の世界におくることにきめたのですが、そんな生活をしたことがないレレアのために、とくべつに1度だけ、魔法が使えることにしたのです。

そんなこととは知らないレレアは、いやがるどころか自信たっぷりでした。
「やっぱりあたしは、魔法がうますぎるのね。空を飛ぶことだって、ほしいものを取り出すことだって、 なんだってできるもの。そんなこと、人間にはできないものね。人間の役に立ってみとめられたら、あたしは魔法の国の女王さまになるのかも? そうなったらどうしよう!」
そういって、とくいそうに笑いました。

「だけど、どうしてあたしなの?」
アイが聞くと、レレアは
「 さっき 公園で、ダンボールをのぞいてたでしょ?」
と言いました。

「うん、見たよ。なんにも入ってなかったけど」
「ほんと? ほんとになんにも見えなかった?」
「うん、からっぽだった」
「うふふ。やっぱりあたしのまほうの力はカンペキだったというわけね!」
レレアは自信たっぷりに言いました。
「じつはあたし、 そこにいたのよ。ダンボールの中にすがたを消して入っていたの。おじいちゃんがね 、
『そこでまっていて、一番さいしょにダンボールの中をのぞいた人間のところに行くように』って、いうのよ」
「それじゃ、もしかして、あたしのねがいをきいてくれるってことなの?」
「そういうこと!」
「なんでもいいの?」
「もちろん! 早くねがいをかなえて、まほうの世界にかえりたいわ」

レレアは、おじいちゃんから
『人間の世界では、まほうは使えない』
と聞いたあとも、自信満々でした。
まほうは使えなくたって、きっと大丈夫だと思っていたのでした。
それでも、何日かすぎると、
(やっぱり、まほうを使いたくても使えないなんて、めんどくさくていやだわ)
と思いはじめていました。

今すぐにでも、アイのねがいをかなえて、まほうの世界にかえるつもりでいました。
「それじゃきいてよ 。あたしの友達で、 ミクちゃんって子がいるんだけど 」
アイはねがいを話し始めました。
「そのミクちゃんが、 きもだめしがだいすきで、毎年夏休みにかならずやるのよ」

「きもだめしってなあに? 」
「あら、レレアしらないの? とってもこわいのよ。夜暗くなってから、おばけがでそうなお墓とか 、 神社を歩くの」
「なぁんだ。ただ歩くだけなんてつまんない。空を飛んだりテレポートしたりするほうが楽しいのなにがいいのかしら?」
「レレアったら、魔法使いじゃないんだから」
「あっそうか。わすれてた」
レレアは 頭をポリポリかきました。
「ミクちゃんはね、あたしがこわがってにげだすと思ってるの。それをおもしろがってるのよ」
「そうか。ミクちゃんは、そんなにおばけがすきなのか。それじゃミクちゃんに本物のおばけ見せちゃおうか?」
「やめてよ。ますますもりあがっちゃう! そんなの毎年やられたらたまんないよ」
「それじゃあ、きもだめし大会中止にする?」
「だめだめ。ミクちゃんは1度中止にしたって、また別の日にしようっていうんだから」
「じゃあ大雨降らせちゃう?」
「同じことだよ。雨くらいでやめたりしないもん」
「こまったなぁ。それならおばけにあっても怖くないように、アイをねむらせちゃおうか?」
「ねむったまま、歩けると思う?」
「あっ、そうか。ねむらせるときと、歩かせるときに魔法を2回使わなきゃいけないんだっけ」
レレアは心の中で
(おじいちゃんのいじわる!)
ってさけびました。

 

 

「なかなかいい方法ってないものね」
アイがあきらめそうになったのを見て、レレアはあわててさけびました。
「だいじょうぶよ。あたしが何とかする。ぜったいに願いをかなえてみせるから安心して!」
けれども、レレアは本当は不安でいっぱいでした。
アイの願いをかなえなければ、魔法の世界にかえれないのです。

公園のダンボールにもどると、くやしくてたまらなくなりました。
「あーあ。魔法が自由に使えたらなぁ。こんなのかんたんにできるのに。まず、きもだめしなんて中止にして、それでもダメなら、夜を昼にかえてやるのよ。かんたんよ。おばけなんて出てきたって、みんなにんじんにしてやるわ。食べすぎて、おなかこわしそうになるくらいにね。たくさんできるだろうなぁ‥‥にんじん」

そんなことを考えていたら、だんだんおなかがすいてきました。
人間の世界についてから、何も食べずにじっとだれかがダンボールをのぞいてくれるまで待ち続けて、やっとアイと出会ったのでした。
あんまりおなかが空いていたレレアは、このとき、つい無意識に、魔法でにんじんを取り出して食べてしまいました。
お腹がすいたときにいつもやっていたようにして食べたのでした。
つかれきっていたレレアは、にんじんを食べおわると、満足してすぐにねむってしまいました。
たった1回しか使えない、大事な魔法を使ってしまったことなんて、すっかり忘れてねむりました。
もちろんアイも、このことに全く気づいていませんでした。

いい方法がうかばないまま、きもだめしの夜になりました。
「さぁいつものように、学校のグラウンドと神社を通って帰ってくるの。わかってるわね」
ミクちゃんが言いました。
アイのほかにも、クラスの女の子たちがいましたが、みんな先にスタートしていて、のこったのはアイとレレアだけです。
「そういえば、この前ね。誰もいない神社に1人で行ったんだけど、いきなり後ろから肩をたたかれたの。振り向いても誰もいなくて、すごく気味が悪かったわ」
ミクちゃんがアイの耳元で意地悪を言いました。

 

 

レレアは、ミクちゃんに気づかれないようにこっそりアイに言いました。
「だいじょうぶ! あたしの体は、アイ以外の人間には見えないの。あたしはアイのかたにのっていくからね」
アイはうなずいて、歩き始めました。

学校のグランドは、昼間の様子とちがって、アイの足音と、車の通り過ぎる音しか聞こえません。
アイはこわくなって、立ち止まりました。
「どうしたの?」

「ねぇ、レレア。あの木のかげに、おばけがいないかなぁ。あの葉っぱがサワサワってゆれるの見てたら、こわくなってきたよ」
「あら、あたしは魔女に見えるわ」
レレアは何でもないというように言いました。
「そんなの、ちょっときどった魔女が立っているだけよ。魔法の世界にね、とんがり帽子に黒マントの魔女がいるんだけど、いつも自分が1番きれいだって思っているわけよ。だからあたしみたいに小さい動物なんか見かけたら、そいつはいつもきどって、長いかみをゆらしてこう言ったものだわ。
『お前がこの美しい髪をつけても、私のように似合わないでしょうね』
ってさ。もうイヤな感じじゃない?
だから、あたし言ってやったの。
『そんなもん、いらないわよ! あんたの髪、焼きそばみたいだし、そんなのが体中にくっついてたらベタベタしそうでいやよ』
ってね。そしたら、その魔女なんて言ったと思う?
『お前の体はやわらかいモチみたいだ。食ってやろうか?』
だって! 失礼しちゃうと思わない?」
「あはは! 確かにそうだわ。レレアってふわふわだもんね」
「もう、アイったら!」

話している間に、学校のグラウンドを通り過ぎていました。
次は神社です。
アイはミクちゃんの言葉を思い出して、ガタガタふるえました。
「ねぇ、レレア。あそこだよ、ミクちゃんの言ってた神社。1人で行くと、後ろから肩をたたかれるんだって」
「1人じゃないよ、あたしもいるし」
と、レレアは答えました。
「だけど、だれもレレアのこと見えないんでしょ? どうしよう、こっそりあとをつけられていたら‥‥」
「それって、カラスのカースケみたいよね」
レレアは思い出したように、高い声で言いました。
「だれなの? そのカースケって」
「そいつはね、本当は1人でとべるくせに、いつも私の空飛ぶじゅうたんをうらやましがって、追いかけてくるカラスなのよ。いつだってこっそり後をつけてきて、
『乗せろ、乗せろ』
ってうるさくて。この前だって、あんまり騒ぐから仕方なく乗せてやったら、カースケなんて言ったと思う?
『お前はやわらかいから、いいまくらになりそうだ。ためしてやるから、ちょっとそこに横になれ』だって! だから、
『あたしはあんたのタクシーじゃないし、まくらでもないわよ!』
って言ってやったの。カースケったら、それでも寝ようとするんだから、もうあきれちゃうでしょ?
それで、あたし、
『あんたねぇ。そんなに寝てばかりいたら、ただ黒いだけで何が何だかわかんないわよ。その羽は何のためについてんの?くやしかったら飛んでみなさいよ』
って言ったわ」
「そしたら飛んだの?」
「飛ばないわ。あたしのじゅうたんにしっかり乗っかったまま、羽だけバタバタさせて寝そべってたわ」
「なにそれ!」
「ふざけてるでしょ? カースケって」

レレアの話を聞いているあいだに、アイはいつの間にか神社を通り過ぎていました。
ミクちゃんたちの待つゴールは、すぐそこです。
アイは、あんなに嫌だったきもだめしが、こんなに楽しくなるとは思いませんでした。
これもレレアがいてくれたおかげです。
アイは待っていたミクちゃんに
「こんなに楽しいきもだめしは初めて! またやろうね」
と言いました。

いつもこわがるアイが、こんなことを言うなんて‥‥。
ミクちゃんは、しばらくポカンとしていましたが、
「あら、あたしはてっきり逃げ出したのかと思ったわ」
と、アイを見ました。
その時、
「あ、あ‥‥あ、アイの肩に、今、青白いものが‥‥」
ミクちゃんの顔が、みるみる青ざめていきます。
「え? どこどこ?」
ほかの女の子たちもアイの方を見ると、青白い光がパッと現れて、すぐに消えました。
「きゃーお化け!」
「本物のお化けこわい!」
未来ちゃんと友達は、あっというまに走って逃げていってしまいました。

これは、もちろんレレアでした。
アイ以外の人間には見えないレレアが、ミクちゃんをちょっぴりこらしめようと、ほんの少しだけ姿を現したのでした。
アイとレレアは、顔を見合わせて笑いました。「今日はありがとね、レレア。おかげですっきりしたよ。今、魔法使ってくれたんでしょ?」
そう言われて、レレアはハッとしました。
「あー!魔法!」
うっかり、魔法でにんじんを出して食べたことを、思い出したのです。
「どうしたの?」
「え? あー、なんでもない、なんでもない」
「ヘンなレレア。まぁいっか。うまくいったんだし」
「そ、そうそう! うまくいって、よかったよかった! もう、じゅうたん出して飛び回ちゃおうかなぁ」
「やっぱり、ヘンなレレア」

アイは、このままずっとレレアと一緒にいられたらいいのに、と思いました。
けれど、願いを叶えたレレアは、約束どおり魔法の世界に帰るのでした。
「きっとまた会おうね」
「うん。またね」
レレアは公園のダンボールの中に入ると、手をふって、ぱっと消えてしまいました。
アイの前には、本当にからっぽになってしまったダンボールだけが残りました。

さて、魔法の世界に帰ったレレアは、あれからどうなったと思いますか?
じつは‥‥。
魔法をぜんぜん使わなくなってしまったんです。
おしゃべりがすっかり楽しくなってしまったらしく、カースケや魔女たちと、顔を合わせればおしゃべりばっかり‥‥。
レレアのおじいさんも、
「これでは、またしゅぎょうのやり直しか」
と、頭を悩ませています。

いつかあなたが、公園でからっぽのダンボールを見かけたら‥‥。
そこには、レレアがいるかもしれませんね!

 

おしまい

 

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eguchi
  • eguchi
  • 子どものころから30年間趣味で、動物が出てくる童話を書いている。2020年に動画をきっかけにブログを始める。
    猫大好き!子どもとネコカフェやカラオケに行くのが楽しみ。