ふぁーう村の村長さん


ふぁーう村の村長さん


ふぁーう村の村長さんは、村の人たちの話をよく聞いてくれる人でした。

だけど、とてものんびり屋さんなのです!
朝は、めざまし時計が何回鳴っても起きられないし、ソフトクリームなんて、食べてるあいだにとけてしまうのでした。
となりの町へ出かけようとしたら、夜だった、なんてこともあるくらいなのです。

そもそもなぜ、ふぁーう村になったかというと、前の村長さんが、王様に村の名前はなにかとたずねられたときに、思わず
「ふぁーう」
と大きなあくびをしてしまったのです。
だから、この村の名前はふぁ~う村とよばれるようになりました。

村長さんは、そんなこと気にしていませんでした。
けれど、村の人たちの中には気に入らないという人もいました。
「こんな名前じゃねー」

「なんだか寝ぼけているみたい」
「あくびが由来なんて、おかしいよ」
「友達に聞かれたとき、はずかしいな」
「よその村はもっといい名前だし」
「かっこ悪いなぁ」
そんなうわさが聞こえたので、村長さんは首をひねって、うでぐみをして、部屋中をぐるぐるあるきまわってから、
「よし決めたぞ! ふぁーう村の名前を新しくしよう!!」
そう決めたのでした。

さっそく、アザーオーリー氏に連絡をしました。
彼は村の小学校の校長先生で、村長さんとは長いつきあいでした。
なにか重要なことを決定するときには、必ず相談にのってもらっていました。

話を聞いたアザーオーリーは、すぐに奥さんをつれて村長さんの家にやってきました。
ふたりは学校の用事で出かけしようとしていたけれど、村長さんがとつぜん村の名前をかえるなんて言い出したので、あわててかけつけたのです。

「ふぁーう村の名前をいきなりかえるというのはどうだろうか? ほかの村からもちゃんと呼ばれているのだからね。残しておくべきじゃないか?」
いすにすわるとアザーオーリー校長は、むずかしい顔をしました。
「あら、わたしはいいと思いますよ 」
校長の奥さんのディアが言いました。
「ひらがなをカタカナにしましょうよ。そのほうがかっこいいですし」
校長とは反対に、テーブルの上のお菓子をつまみながら、
「村の人たちも、それをのぞんでいるんでしょ」
と楽しそうです。
「とにかく、みんなはあくびみたいな名前なのがイヤなんでしょ?」
「全くそのとおりです!」
村長がいうと、
「でも、ふぁーうの名前がなくなるのはどうかと‥‥‥」
校長はあいかわらず、けわしい表情でうでぐみをしています。

すると、校長の奥さんのディアが、
「ふぁーうのあとに、なにか言葉をつけるのはどうかしら?」
と言いました。
村長は、大きくうなずきました。
「なるほど、きちょうなご意見ありがとうございます。 それならこうしましょう!」



村長さんは、さっそく紙に書きました。
「【ファウアザオーリーディア】です。これなら、ふぁーうも最初につきますし、 カタカナにしてかっこいいですし、意見をいただいたお二人の名前が残ります。」
村長さんは感謝の気持ちをこめて、こんなことを考えたのでした。
われながら、いいアイデアだと思いました。
アザー オーリー校長と奥さんも、自分たちの名前がはいるのですから、悪い気はしません。
「それに決めましょうよ」
奥さんが校長の肩をポンとたたくと、
「まあいいだろう」
校長もうなずきました。
意見がまとまったところで、 ア ザ ーオーリー校長と奥さんは、きげんよく帰っていきました。
村長さんは、村の名前かえる手続きのために、書類を作りはじめました。

そのとき、村長さんの家の前で こどもたちの声がしました。
なにやらケンカをしているらしく、さわがしい声です。
今は村の名前を新しくかえる、重要な仕事のまっ最中。
(急いで仕事をしなければならない!)
‥‥ と心の中で思っていても、村長さんはどうしても、その子たちのケンカのわけを聞いてやりたくなるのでした。

「よし、ちょっと話を聞いてくるか。書類づくりはそれからでもおそくない」
村長さんは、すっくと立ちあがりました。

「ぜったいに、フォーカンチス湖で魚つりだ!」
外へ出ると、声はすぐにはっきりと聞こえてきました。
となりの家のスナイフでした。
「いやだ!公園で砂あそびがいい」
小さい弟がだだをこねています。
村長さんがわけを聞くと、今度の日曜日にあそびにいく場所でもめているようなのです。
「そうかわかった。それなら、じゃんけんで決めたらどうだい?」
村長さんがいうと、2人はさっそくジャンケンをして、小さい弟がかちました。

「これで行き先は公園に決まったね! じゃあ2人ともケンカはやめて、うちへおかえり」
小さい弟はうなずいて、いえにかえりました。
けれど、スナイフは、
「いやだよ! ボクはフォーカンチス湖に行きたかったんだから!」
と、そっぽを向いしまいました。
村長さんは、よけいなことをしてしまったと思いました。
けれどスナイフは、急に何か思いついたように明るい声でこう言いました。
「まあ、いいけどね。そのかわりに村長さんが」
「フォーカンチス湖につれてってくれっていうのかい?」



「ちがうよ! ボクと湖の名前を、この村の新しい名前につかうんだよ」
「なんだって ? 」
村長さんは、目をパチクリさせました。
「ボクさっき、校長先生が村長さんと話してるの聞いちゃったんだ。ふぁーう村の名前を新しくかえるんだよね? それなら、
【スナイフ・フォーカンチス】
にしてよ。どう? いいアイデアでしょ?」
「なるほどねぇ」
村長さんは、ついさっき アザー オーリー 校長と奥さんの名前を入れると決めたばかりなのに、そんなことはすっかり忘れてうなずきました。
「いいだろう、使わせてもらうよ。忘れないうちにメモしないとな」

村長さんが急いで帰ろうとすると、家の前にエプロン姿のストラチアさんが立っていました。
ストラチアさんは、ねこが大好きで何匹も飼っていました。
会えばいつもねこの話ばかりするから、村のこどもたちは、ねこのおばさんとよんでるのです。
ストラチアさんは、村長さんの顔を見ると、もう喜びをかくしきれないというように笑顔になりました。
「まあ、村長さん。聞いてくださいな」

「おや、ストラチアさん。どうされました? なにかいいことでもあったんですか ?」
村長さんは、こんなにきげんがいいのは、ねこにいいことがあったのだろうと分かっていましたが、笑顔で聞いてやりました。

「じつはですね。ついに生まれたんですの。ティアちゃんのかわいい子ねこが!」
ティアというのは、ストラチアさんの家でかわれているメスねこのことです。
おなかが大きくなったと大さわぎして、動物病院に連れて行ったとか、赤ちゃんがいるとわかって食事に気をつかうとか、うれしそうに何度も話すものだから、忘れっぽい村長さんでも名前くらいは覚えてしまいました。

「ティアは今日のあさ、ごはんの時間になっても姿が見えないと思ったら、 押入れのすみにいたんですよ。ああ、ティアちゃん! どんなにうれしかったでしょう。あのこは、ずっと子供ができなくて悩んでいたんですもの。食欲がなくなったりしたときには、もうどうしたらいいのか。私も自分のことのように落ちこんだものですよ。きっときっとうれしかったわよね。ああ、ほんとにかわいくて‥‥」
「あの、 ストラチアさん 」
ストラチアさんの話が長びくと思った村長さんは、あわてて口をはさみました。

 


「子ねこのことは、おめでとうございます。また、あらためてお話をうかがいますよ。それでは、わたしは家で仕事がありますので、急いで帰らないと‥‥」
「まあ、村長さんが、急いで仕事を?」
ストラチアさんは、目まるくしました。
(村長さんはいつも、話を最後まで聞いてくれるのよ。 いままでずっとそうだったわ。こんなことは初めてよ。これはきっと、なにかあるにちがいないわ!)
ストラチアさんは、目をかがやかせて聞きました。
「なにをされるんです? 特別なことなんでしょう? そうに決まってますわね? うちのティアちゃんの出産よりも、大きなニュースだなんて、とっても興味深いわ!」

ストラチアさんにそう聞かれたら、もうごまかすなんてできません。
村長さんは、ふぁーう村の名前を新しく することを話してしまいました。
「それでしたら、いい名前がございます」
ストラチアさんはにっこり笑いながら、
「それはもちろん、ティアちゃんと子ねたちの名前です。3びきはマル、カル、タルとつけましたの」
「はぁ、そうなんですね」

「ふぁーう村の新しい名前に、
【ティアマルカルタル】
なんてどうかしら? とってもいい記念になりますでしょ? ティアちゃんもきっとよろこびますわ。あと、ついでにわたしの名前もつけていただこうかしら。
【ティアマルカルタルストラチア】
あら、いいじゃない!」

村長さんは、
(ここでことわってしまったら、ストラチアさんをガッカリさせてしまう)
と思いました。
ストラチアさんのことだから、生まれた子ねこがどんなにかわいいかを、村長さんがうなずくまで話すでしょう。
そんなことになったら、村長さんはいつまでたっても、村の名前をかえる書類をつくることができません。

「わかりました。使わせてもらいましょ う 」
村長さんは、アザーオーリー校長と奥さんに決めてもらった名前のことも、スナイフとの約束も忘れてうなずきました。
ストラチアさんは、ティアの子ねこが生まれた喜びで、いてもたってもいられませんでした。



それからストラチアさんは毎日、村じゅうを歩きまわっては、大人にも子どもに話しました。
そのたびに、ティア、マル、カル、タル、それに自分の名前のストラチアまで、ふぁーう村の新しい名前に使ってくれるように、村長さんにたのんだこと、村長さんが、すぐに引き受けてくれたことを話してしまいました。

村では、ふぁーう村の名前がかわるといううわさが、どんどんひろがりました。

好奇心いっぱいの子どもたち、フェンサー、カルター、リー、トゥロンの4人が、つぎつぎにやってきては、自分の名前も使ってほしいと村長さんにたのみました。
村長さんはそのたびに、
「いいだろう、 つかわせてもらうよ 」と答えました。

気がつくと、ふぁーう村の新しい名前は、とうとうこんなにたくさん‥‥!

ファウアザ オーリー ディア
スナイフフォーカンチス
ティアマルカルタルストラチア
フェンサーカルターリートゥロン

だけど、この中からたったひとつに決めるなんて、 村長さんにはできませんでした。
「どれかひとつをえらべば、えらばれなかった人ががっかりするぞ!」

アイデアをくれた校長と奥さんも、スナイフも、ストラチアさんも、村の新しい名前には自分の名前が入ると思って、よろこんでいるのです。
えらばれなかった人に、『やっぱりつかえない』と、ことわりに行くことを考えると、とてもゆううつでした。
村長さんは『名前をつかわせてもらうよ』と言ったのに、やっぱりつかわなかったら、村の人たちとのやくそくをやぶることになってしまうと思いました。
みんなの気持ちを考えたら、それはとてもできないことでした。

テ一ブルの上には、新しい名前のアイデアを書いた紙がならんでいます。
村長さんは考えました。
部屋じゅうをぐるぐる歩きまわって、うーんとうなって、うでぐみをして、天井を見て、テーブルを見て、また、うーんとうなって考えました。
そして、大声でこう言いました。
「ようし! この名前は全部採用だ! 村の人たちが、せっかく考えてくれたんだからな」

村長さんは、この名前のアイデアを全部つなげて、ひとつの長い名前にすることを思いついたのです。
村長さんはさっそく、書類に新しい名前を書こうと机にむかいました。

すると、一通の手紙に気がつきました。
このところ、新しい名前のことで頭がいっぱいで、手紙に気がつかなかったのです。
差出人は王様でした。
あわてて読んでみると、王様はアザ ーオーリー校長から、村の名前を新しくかえると聞いたらしいのです。
そして、新しく決まった名前を聞くために、ふぁーう村にお見えになると書いてあります。

しかも、その日付は‥‥明日です。

「たいへんだ! 明日までに新しい村の名前を覚えておかなくては」
村長さんは、長い長い村の名前を何度も紙に書いたり、声に出したりして、必死になって覚えようとしました。
けれど、もともと忘れっぽくて、のんびり屋の村長さんは、なかなか覚えられません。

とうとう一睡もしないで、朝になってしまいました。
玄関のチャイムが鳴りました。
王様のようです。
村長さんは、ふらふらしながら立ち上がりました。

ドアをあけると、王様が立っていました。
「おはよう、村長さん。新しい村の名前は決まりましたかな?」
王様に聞かれて村長さんは、やっとのことで覚えた長い名前を伝えようと、口をあけました。
そのとたん、大きなあくびがひとつ。 

「ふぁーう」

と、出たのです。
(しまった ! )
と思ったときには、おそすぎました。
「そうか、やっぱりふぁーう村か」
王様はうなずいて、帰ってしまいました。
村長さんは、ポカンとしたまま見送りました 。

おしまい


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eguchi
  • eguchi
  • 子どものころから30年間趣味で、動物が出てくる童話を書いている。2020年に動画をきっかけにブログを始める。
    猫大好き!子どもとネコカフェやカラオケに行くのが楽しみ。